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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1563号 判決 1968年9月20日

控訴人 石崎清茂

右訴訟代理人弁護士 山口吉美

被控訴人 松尾靖介

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は左のとおり附加するほか原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

一、住友建設株式会社の本件工事には次のような瑕疵があった。(1)当局に建築確認申請をしないいわゆる闇建築である。(2)地下室浄水槽と天井に漏水止の施行がない。(3)地下ポンプ室設置のポンプは古物であって使用に耐えなかった。(4)樋に連続して雨水を屋敷外に排出する排水設備がなかった。(5)二階、三階の便所の手洗の排水パイプは床下に差込んであるだけで外部へ排水する導水管がない。(6)二階、三階廊下のタイル張りが約四坪分未完成のままである。以上のため控訴人はその後三沢慶次郎に浄水槽の漏水防止の補修を委託して九万二千円を要し、そのご右補修では日を経ると駄目であることが判り、昭和三七年二月頃から国見春芳に託して内部の模様替えをし、更に二二六、九〇〇円を要し、控訴人は住友建設株式会社の不完全工事に因り右三一八、九〇〇円相当の損害を蒙った。また、右会社は昭和三五年一二月三一日控訴人に対し一階の内装工事を昭和三六年一月一〇日までに完了すること、もし遅延したときは控訴人がかねて交付してある額面五〇万円、支払期日同年一月三一日の約束手形を返還し、右額面相当の請負代金債権を放棄する旨約しながら右約定どおりの工事を完成しなかった。しかるに、右会社は右手形を返還せず期日に支払を受けてしまったから、控訴人は同会社に対し五〇万円の返還請求権を有する。

よって、控訴人は当審第五回口頭弁論期日(昭和四二年九月二八日)に右債権をもって被控訴人の本件譲受手形金債権と対等額で相殺する旨意思表示した。

二、被控訴人の本訴提起は住友建設株式会社が被控訴人に対してした訴訟を主たる目的とする信託に基き債権譲渡の形式をもってなされたものであるから、信託法第一一条に違反し許されない。このことは次の事実からみて明らかである。(1)住友建設株式会社の本件請負工事は確認申請を欠く闇建築であり、しかも前記のような工事上の瑕疵や五〇万円の返還債務があるため、控訴本人(昭和三六年二月二三日付書面―乙第三号証―)及び控訴代理人(同年三月一三日書面―同第五号証の一―)からこれを責められていたため本件手形金は尋常の手段では取立てえぬと痛感していたこと。(2)住友建設株式会社は本件各手形の支払期日を遙かに経過した昭和三八年二月一日に被控訴人に右手形を譲渡していること。(3)被控訴人は一回だけ控訴人に対し書面による本件手形金支払請求をしただけで他に何らの交渉もせずいきなり本訴を提起していること。(甲第二号証の二、同第八号証の一参照)

(被控訴人の主張)

一、控訴人の右一、の主張を否認する。本件工事にもし控訴人主張のような瑕疵があれば同人はその引渡しを受ける筈がない。元来、請負代金は当初三分の一、工事中途で三分の一、完成時に三分の一を支払うのが通常で、本件請負契約もこれに従い、住友建設株式会社は約定の建築工事を遂げたにもかかわらず控訴人が一方的に契約を破棄すると称して本件手形金を支払わないのである。元来、控訴人は無頼の徒であり、いとこ依岡孝明の名義をかりてその資格もないのに医師を詐称しているもので本件建物で自ら開業しようとした悪質な者である。また、控訴人は本件建物は五〇万円の値打ちしかないと主張するが、控訴人は右建物の引渡しを受けてからこれを担保として三栄相互銀行大阪支店より三二〇万円の融資を受けている。担保物の値踏みが市価の四ないし六割であることを考えると右建物の価格は優に三六五万円を超えること明らかである。さらに控訴人は違法建築を云々するが、現在建築の約六割は当局の確認を経ていないのが実状であるのみならず、本件において確認申請手続ができなかったのは、控訴人がその敷地を久保キミエから買受けたのにその代金を支払えず、ために所有名義を得られなかったため附属書類が整わなかったからである。

二、控訴人の右二、の訴訟信託の主張も否認する。被控訴人は住友建設株式会社に対し二五〇万円の出資金返還請求権を有しているので、その一部として本件手形の譲渡を受けたのである。

(証拠関係)≪省略≫

理由

まず控訴人の信託法違反の主張について検討する。

控訴代理人は当審第五回口頭弁論期日(昭和四二年九月二八日午前一〇時)に右主張をなし、被控訴人はこれを争った。そこで控訴代理人は第七回口頭弁論期日(昭和四三年四月五日午前一〇時。なお、第六回期日は双方不出頭のため職権により延期された)に右主張事実を立証するため被控訴本人尋問の証拠申出をしたので、当裁判所はその後昭和四三年七月三日期日外の証拠決定により右申出を採用してその証拠調期日を第九回期日(昭和四三年七月三一日午後一時)と指定し(なお、右証拠決定までの訴訟経過については後記参照)、同年七月四日到着の郵便による適式の方法で被控訴人に対し右口頭弁論並びに被控訴本人尋問施行の期日呼出状を送達した。(なお、控訴人側が提出した被控訴本人尋問申出書副本は、あらかじめ同年四月一一日到着の郵便によって被控訴人に送達ずみであり、同副本によれば被控訴本人尋問のさいの尋問事項として信託法違反に関する控訴人の主張事実に関連する事項の記載がある。)しかるに、被控訴人は正当の事由なく前記第九回期日の呼出に応じなかった。(なお、当裁判所は控訴人の右証拠申出があるより先第五回口頭弁論期日において従前の証拠調の経過に照らし被控訴人の主張事実全般並びに控訴人の信託法違反の主張事実等の存否につき職権で被控訴本人尋問を次回第六回期日に施行する旨決定し双方に告知したが、右第六回期日は前記のとおり双方不出頭のため職権延期となったため、さらに第七回期日を指定告知したが、既にして被控訴人は右期日にも出頭しなかった。そこで、裁判所は右第七回期日に前記職権尋問の決定を取消し、あらためて控訴人申出の被控訴本人尋問を採用し、その証拠調期日を第八回期日(昭和四三年六月二六日午後一時)と指定したが被控訴人は右期日にも出頭しなかったから右証拠決定を取消し、弁論を終結した。しかし、右期日については、被控訴人に対し本人尋問のための呼出状だけが送達され、弁論期日の呼出状を送達しなかったので、当裁判所は弁論を再開の上、前記のとおり期日外であらためて証拠決定したのである。)以上の事実は本件記録上明白である。

よって、当裁判所は民事訴訟法第三三八条に則り右尋問事項に関する控訴人の主張を真実と認める。右事実によれば被控訴人が信託法第一一条に違反して本訴を追行していると推認することができ、他に右推認事実を左右するに足る証拠はない。

そうすると、被控訴人の本訴請求は爾余の判断をなすまでもなく失当である。

よって、本件控訴は理由があるからこれと異る趣旨の原判決は取消を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 石井末一 判事 竹内貞次 畑郁夫)

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